アイランドは1982年発売「survive」のリメイク版。2012年発売の「30周年記念版」が完全日本語版となって最近発売された。
僕の(短い)ボードゲーム歴の中で特殊な位置にあるゲームだ。アイランドに対して思うことを言語化し、自分の好き/嫌いを掘り下げることがこの記事の目的となる。レビューもする。
記事作成の動機
間違いなく名作である。30年経って新版が出るゲームがどれほどあるだろう。プレイ人数・ルール量・プレイ時間・アートワーク全てが僕の持つニーズに合っていたため、自宅会での稼働率は非常に高かった。プレイ中は楽しいし盛り上がる。にもかかわらずあまり好きになれなかった。
ニーズ…学生時代は大学の友人としか遊んでいなかった。ボードゲームなど知らない人が殆どだ。簡単/盛り上がる/見た目が華やかなゲームに需要があった。カタン、ラブレター、アイランド、ディクシット、キャプテンリノ、赤ずきんは眠らないなどが良くプレイされていた。
ゲームプレイ自体は楽しんでいながら「好きになれない」と感じることは珍しい。言い表せない微妙な感覚を追究する。
ゲーム概要
(A)テーマ
沈みゆくアトランティス島から脱出するゲーム。伝説の島アトランティスにたどり着いた冒険家たち。お宝を手にしたとたんに島が沈み始めた!海にはクジラ、サメ、恐ろしい海龍たちがひしめき合う。時にはライバルと協力し、時に裏切り、一人でも多くの冒険家を逃がすのだ!
・アトランティス
神秘的な響きを持つ言葉である。アニメ映画で知ったか遊戯王カードで知ったか思い出せない。海底二万マイルだったかもしれない。
アトランティスという言葉を作ったのは古代ギリシアの哲学者プラトンだそう。プラトニックラブの語源の人だ。プラトンが彼の著書「ティマイオス」「クリティアス」で語る巨大な島がアトランティスだ。ジブラルタル海峡のすぐ外にあったらしい。 資源の宝庫で島を支配する帝国は強力な軍事力を有していたが、堕落した人民に対し神は罰をあたえ、結果アトランティス島は沈む。強国の傲慢さを揶揄したプラトンの寓話だという。
ムー、パンゲアあたりにもロマンを感じる筆者としてはなかなか心くすぐられる。
とはいえアイランドでは特にアトランティスを感じない。残念ながら心くすぐられない。古代文明/帝国/神秘等の要素は切り捨てられている。ゲーム自体は「謎の孤島」でも問題なく進行する。
「謎の孤島」よりも「アトランティス」の方がなんとなく楽し気であるのは否めないが。
(B)特徴・どんな人に勧められるか
・大別すればパーティゲームにあたる。戦略があるようで無い。ブラフ/運/ヘイト管理の占める割合が大きく、どんなにうまくやっても戦局のコントロールは難しい。
・攻撃はバンバン発生する。ゲームシステムがそれを推奨しているからかそこまでギスギスはしない。残機がたくさんあることも関係しているかもしれない。
・プレイヤーは
- 自身の駒の脱出
- 他プレイヤーの駒の脱落
の2つを同時に狙う。システム側(海獣側)の動きをもプレイヤーが担うため、プレイヤーの立場がちょっとよくわからなくなる。
・協力・裏切りがフランクに頻発する。両方やらなくちゃあならないのがゲーマーの辛いところだ。
・コンポーネントの出来が良い。タイルは厚いし、海獣たちの駒の造形も凝っている。サメが特にセンスフルだと思う。
へクスタイル、パーティゲーム、グリッド移動、海、大きなメインボード あたりが好みの人であれば勧められる。
(C)その他
プレイ人数2~4人 プレイ時間30分~45分程度
ゲーム会で小学校低学年くらいの子がプレイしているのを見た。初心者でも十分できるはず。
ルール概要
本当にざっくり書く。
詳細ルールは今回の考察に不要と判断したため。
目的:自駒の脱出
ゲーム終了条件:火山噴火イベントが起こる
勝利条件:脱出した自駒の勝利点が高い人の勝ち
プレイヤーは自分の駒を順番に島の上に配置していく。それが終わったら船を岸につくように配置する。
駒の裏には数字が書かれており、脱出に成功した時はその数字がそのまま得点になる。なお、裏の数字をゲーム中に確認してはいけない
手番でやること
- 自駒を3歩動かす。違う駒をそれぞれ1歩でも良いし、1つの駒を3歩でも良い。
- タイルをめくる。最初は砂浜且つ海に面したタイル。砂浜が無くなったら森、さらに山岳と続く。めくるとき、タイルの裏を確認する。イベントが起きたり、特殊効果タイルとして所持できたりする。
- モンスターダイスを振り、対応する海獣を動かす。それぞれの移動距離はボードに示される。
その他ルール
- 海の上では駒は一歩しか動けない
- 船に乗ると3歩まで動ける
- 船の操作は乗組員の過半数を取ったもの
- 乗組員が同数の場合は乗り合わせた各色プレイヤーが動かせる
好きな点・苦手な点
(A)好きなところ
1 会話発生機会の多さ
船に相乗りできるルールにより、協力や裏切りが発生しやすい。やったーやられた、助けた—助けられたの関係が毎ターン出来上がる。会話が発生しやすく盛り上がる点はとても好ましく思っている。
2 運要素 経験で差がつきにくい
最初にも述べたが運要素は多分に含まれている。また、島タイルはそのままイベントor手札になるため、予期せぬ展開へと進むことも多い。
- 先の見えなさ
- 逆転の演出
- (緻密な戦略が用をなさないことによる)プレイ感の軽さ
敬遠されがちな運要素だが、メリットも多い。
以下ちょっと余談
「徐々に減る島タイル」にもう一つの意味を持たせるこの点を僕は非常に高く評価している。(急に偉そうになった
砂浜→森→山岳の順にめくられるタイルの裏に効果を記すことで、「時代と共に使用デッキが変わる」メカニズム (スルージエイジズ、イノベーションなど)を盛り込むことにも成功しているのだ。
多分僕がアイランドの制作をしていたら、「各プレイヤーはタイルを除いた後にイベントデッキから1枚引いてください…」みたいな感じになっていたと思う。ルールの省略とコンポーネントの節約を一手で解決させるこの方法は素晴らしい。そして多分自分は創作のセンスがないな
3 テーマのキャッチーさ、没入性
沈没する島からの脱出!これだけでももう楽しげだ。さらに海にはクジラ、サメ、海龍。何となく漂うダサさ(いい意味)、B級パニック映画のようなテーマ。逃げるときの緊張感もそれに拍車をかける。ダイス運次第でなんとか海龍から逃げ出せるかハラハラしてる時がこのゲームで一番楽しい瞬間だと思う。
4 アートワーク・広い盤面
メインボードが広いとそれだけで高評価をつけてしまう。海きれい。駒の位置ズレを気にしなくて済むのもプレイアビリティ向上に寄与している。
5 駒移動の楽しさ
これはものすごく個人的な好みになるが、グリッド移動の快感を改めて推していきたい。
- すごろくで6が出た時
- 将棋の飛車で一気に敵陣に切り込むとき
- ケルトでクローバータイルを用いうまく進めた時
- エルドラドでライバルをごぼう抜きした時
楽しい。アイランドでは移動は3回で固定だが、ちょうど3回で脱出できた時や、3駒を同時に動かして全員船に乗せられた時など移動の快感を得られる場面は多い。上記だとケルトに近いか。
(B)苦手な点
1 お仕事感
「ここで船を進めたら自分以上に相手が得をする、やめておこう」「でも誰かが進めないと相乗り者全員が損をする」「では僕が」「どうぞどうぞどうぞ」海龍ガブーー
↑みたいなことが起こる。(省略しすぎて要領を得なくなってしまった。詳細はプレイ済みの人に聞いてほしい)
ゲーム上必要なジレンマとしてデザインされた可能性も高いが、ゲームに期待する楽しさ(盛り上がり、脱出のハラハラ)につながりにくいと感じてしまった。
2 記憶要素
ミープル裏の数字は以下の役割を果たしていると考えている。
- 最後まで勝者をわかりにくくする、盛り下がることを防ぐ
- ブラフ要素、駆け引きやジレンマの演出材料として
どちらもうまく機能しているとは言い難い。このゲーム、後半はどうしても盛り下がるし、数字を考えて動かすのは良くて最初の数ターンだけだ。「裏の数字を見てはいけない」ルールは蛇足に思える。
この点は選択ルールで改善されているものの、あくまで基本ルールベースで進めていく。
3 後半戦の盛り下がり
島の沈没が進むとどうしても逃げられない駒が出てくる。わかってしまう。「島タイルの残りが6個ってことは遅くとも6手番後に終了だ。ということはボートもない今この駒はほぼ助からない。」みたいな思考が徐々に広がる。最初に気づくのは1人でも、エンドトリガー(噴火)を引く直前にはほぼ全員がわかってしまう。
この、「もうこの駒は脱出させられない(得点をこれ以上得られない)けどゲーム終了ではない、一応終わるまでやるか」みたいな雰囲気、実に空虚な時間で苦手だ。
4 駒移動ルールのわかりにくさ
駒移動楽しい!と書いた後にこんなことを言うのは心苦しいのだが、移動のルールがわかりにくい。
海に入るときは一歩しか進めない、海から陸に上がるときは3歩までだ。海からボートに乗るときは同じマスにいなけらばならない。ボートから海に出るときは一歩だ、ではボートから陸では?理解しにくく、テンポを損なうと感じた。
なぜ好きになれないか
A ゲームの持つ特性と自分との間に生じるギャップから。
もうちょっと詳しく書いてみよう。主観が多分に含まれる。
・事前の心構えの間違い
いきなり余談からスタートする。フォトリーディングという読書術をご存じだろうか。圧倒的なスピードで本や資料を読み込み処理することのできる技術・能力を指す言葉だ。訓練次第で誰でも身に着けられるとの煽りを受けて、僕も練習していた時期がある。(結局諦めた
フォトリーディングは本を開く前からスタートする。曰く、「なぜ自分はこの本を手に取ったのか」「この本から自分は何を得たいのか」、と問いかけるところからこの読書術は始まる。絵本を読む時には挿絵を楽しむとか、学びを深めるために専門書を開くとかその程度の「心構え」は無意識のうちに誰でも行うはずだ。その感覚の強化。精神統一をしてフロー状態への入り口に立つことが肝心だという。胡散臭くなってきたがもうちょっとだけ我慢してほしい。大丈夫、もうフォトなんちゃらの話は終わりだ。
この「心構え」、ボードゲームにも準用されるのではないだろうか。あるボードゲームをプレイするとき、〝そのゲームでどんな体験を得たいのか”ゲームに慣れた人は無意識のうちに「心構え」てしまうことがある。
パーティゲームで遊ぶときは多少気を緩め、勝利より盛り上がりを優先する。アメリカンなゲームであれば派手なインタラクションを厭わないマインドセットを作る感じ
思い込みといってもいい。ゲームに慣れている人ほど誤読しがちな文脈。例えばワーカープレイスメントゲームはワーカーを増やす動きをしたくなり、カードゲーム系ではドローこそ正義だと思いがちだ。
逆に、慣れていないからこそ誤読することもある。軽くプレイするようなゲームを厳密なカウンティングで制しようとする(僕はラブレターでやったことがある)、人狼ゲームで自分のみの生き残りを優先する等。僕とアイランドの関係はまさにこれだった。
要は、僕は「アイランド」を戦略的に勝利を目指すゲームだと勘違いしていた(間違った心構えをしていた)。これに尽きる。
勘違いし続けたまま修正ができていない、がより近いかもしれない。
アイランドの
- へクス
- 広いボード
- 三歩限定移動
という文脈が先に目についてしまい、この作品を「戦略的な」ゲームだと思い込んでいた。次はもうちょっとうまくやれる、冷静に考えれば勝利に近づくと考えてしまう。このゲームは本来もっと楽に楽しむものではないか。
まとめ
「アイランドっていいところも悪いところもうじゃうじゃあるよなあ」みたいな考えがホントの記事作成の動機だったので、途中で上記ギャップに気づいてしまったことから構成に若干の修正を加えた。
「楽しめているのになんだか好きになれない」そんな状態で10~20ゲームはしているが、いま改めてプレイしたらどんな印象を抱くのか。近いうちに実験してみたい。
上で述べた「ゲームに対する心構え」はあくまで仮説にすぎない。自身の好き嫌いの把握までの道のりは遠い。
今回紹介したゲーム
記事中赤下線で示してある。ご興味あれば
簡単、盛り上がるゲーム
カタン、ラブレター、アイランド、ディクシット、キャプテンリノ、赤ずきんは眠らない
ゲームが進むにつれ使用カードが変わるメカニズム
スルージエイジズ、イノベーション
駒移動の楽しい
ケルト、エルドラド
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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